以前は、大山詣ではたいへんな賑わいをみせ、夏の山開きの頃は、その道筋にあたる田名の久所の渡しは、舟待ちの人であふれていました。
その日はむし暑く、昼頃から急に雲行きが怪しくなり、大粒の雨が降り出し、雷が鳴り始めました。河原で舟待ちをしていた大勢の人が、あわてて逃げまどう中、もすごい音がして雷が落ちました。
そこには、一人の道者が大やけどをして倒れていました。人々はまた落雷を恐れて誰も近寄ろうとしません。その時、交代で休んでいた渡し守がかけより、近くの自分の家に担ぎ込み、一心に介抱したのです。
しかし道者はそのかいもなく、死んでしまいました。
道者は今わの際に、「このお礼に、お前さんの望みは何でもかなえてあげます」と言いました。船頭は何を言っているのだと思いましたが、その死に顔はなんだか神々しくて普通の人には見えませんでした。
船頭は酒が好きで、毎日一升の晩酌をするのが念願でした。それから不思議なことにそれがかなうようになりました。船頭はそれ以上の高望みはしませんでした。そのお酒が励みになり、仕事にせいを出して、金持ちになったと言うことです。
文・絵:いちむら あきら
座間美都治
相模原民話伝説集より