話のわかる狼

 昔の「さがみっぱら」はススキの生い茂る広い原っぱでした。そこには狸や狐、むじななどが棲んでいて、時々人間に悪さをしていました。 狼も棲んでいました。狼の遠吠えは不気味に響き、また集団で人や家畜を襲うこともあります。ところが、さみっぱらの狼は、違っていました。
矢部新田の部落の近くに狼の棲みかがあって、狼が子を産んだので、近所の人が重箱に赤飯をいれて、畑の隅にある大石の上にのせて置いたら、赤飯がなくなっていました。そして、お礼のつもりか、帷子が置いてあったということです。
南の中和田では、源さんというお年寄りが、ある時隣村まで用足しに行って、帰りに鯖の干物をおみやげに貰って来ました。途中まで来るとなにやら背中にうごめく物を感じたのです。源さんの額にじとっと汗がにじみました。狼です。それも数匹。ねらいは源さんの提げている鯖の干物です。 「これが欲しいのか、でも全部やるわけにはいかぬ。これで我慢してくれろ」と鯖の頭をとって、道端の草の上に置いてやったところ、それで満足したのか、それから後をつけてこなかったそうです。現在の日本では狼は絶滅したと言われています。

文・絵:いちむら あきら
座間美都治
相模原民話伝説集より