むかし、上鶴間の谷口にひとりの男が住んでいました。男は日がな一日考え事をしていました。そしてすっくと立ち上がるとぽんと手を打ちました。「よし、俺は修行をする!そして国持ちの大名になってみせる」と叫ぶと、何を思ったか、傍らにあった鍬を振りあげ穴を掘り始めました。
穴は人間が一人座っていられるぐらいの大きさになりました。そして蓋を作りそこに節を抜いた竹筒をさし、息ができるようにしました。男は用意していた鉦を持って穴の中に入り、上から器用に土をかけ、そこに座ってて鉦をたたいて念仏を唱え始めました。男の言った修行とはこれだったのです。男は一心不乱に鉦をたたいて念仏を唱えていました。
そこへ馬を引いた馬子が通りかかりました。どこからともなく鉦の音と念仏の声が聞こえてきます。あたりに誰いないので変に思い、たどっていくと地面から竹筒が突き出ていて、そこから聞こえてきます。馬子はまさか中に人間が入っていると思いませんから、竹筒に泥を詰め込んで行ってしまいました。穴の中の男は、かわいそうに息が出来なくなって死んでしまいました。
文・絵:いちむら あきら
座間美都治
相模原民話伝説集より