葉山島のうなぎの精

 田名の相模川向う岸に葉山島という所があります。その葉山島の「一の釜」の上に、崖に迫って碧くよどんだ淵があります。そこは流れから切り離されたように水がゆったりと渦を巻き、のぞき込むとどこまでも碧く、思わずのみ込まれそうになります。
ある日の夕方、近くに住む村人の権助が、この淵にやって来ました。手に「おきばり」を持っています。「おきばり」とは、鉤をつけた細い麻紐を短い棒に結び付け、餌のミミズをつけて、夕方うなぎのいそうな場所に、わからぬように入れて置き、翌朝取りに来るというものです。
次の朝、権助はまだ暗いうちから起きて、淵にやって来ました。昨日仕掛けた「おきばり」そっと上げてみると、丸太のように大きなうなぎがかかっていました。あまりの大きさに薄気味悪くなっていると、たちまち崖の上に、白っぽい着物を着た白髪の老婆がもうろうと現れたのです。そして陰にこもった声で「権助さらばぞ」といいながら権助をにらみつけました。
権助は血がいっぺんに引いた感じがして腰が抜けてしまいました。これは淵の主のうなぎの精だと、急いで鉤からうなぎをはずして淵に放ち、一目散に家に逃げ帰ったということです。

文・絵:いちむら あきら
座間美都治
相模原民話伝説集より