小沢城落城秘話

 田名の九所から相模川を隔てた対岸に小沢城址があります。
時は文明年間、城主金子掃部助は、上杉方の属将太田道灌の攻撃を受け、溝呂木城(厚木)・磯部城(下磯部)などとともに落城してしまいました。
その時掃部助には一人の美しい姫がありました。姫は年頃で、すでに夫となるべき人が決まっていて、挙式の晴れ着も出来て、婚礼を待つばかりでした。
しかし、運命の定めは悲しく、お城は落城、一族郎党皆討ち死にということになってしまいました。
姫はせめてその晴れ着を着けて、死出の旅路を飾ろうと、装いを凝らし一世一代の晴れ姿で、燃えさかる城を後にして、相模川を見下ろす断崖の上にたちました。そしてはるかに許婚の相手のいる彼方の空をみつめました。
「この世で結べぬ契りなら、せめてあの世で!」
と叫ぶと、髪をひるがえして、ざんぶとばかり激流の真中に飛び込んだのです。
すると、一転にわかにかき曇り、嵐と稲妻が走り、あの姫の容姿は、たちまち恐ろしい龍蛇に変貌、身をうねらせて川を下り、望地の対岸の岩鼻で大きな飛沫を上げると、川底深く消えたのです。
その呪いは今も残り、城坂の道を花嫁が通ると、必ず不縁になるといわれています。

文・絵:いちむら あきら
座間美都治
相模原民話伝説集より