和尚が消えた!

 山口久左衛門と言う人の覚書の中に、新戸の伝承がいくつか列記されていますが、その中の一つにこんな話があります。
むかし、下新戸の中ほどに蓮花院という小さなお寺がありました。そのお寺の和尚さんのところへ、夜な夜な、若いちょっと小太りな女が、人目をしのんで、訪ねて来るようになりました。美人ではないが、いわゆる男好きのする女です。そういう女は、いくら人目をしのんでといっても、やはり目立ちます。ちょっとした評判になりました。
女は、菊という名前で、新戸の陣屋に住む、領主増山弾正正利の弟の主水の囲い者でした。菊はその評判を打ち消そうと、お寺の住職の姪だと言いふらしていました。
ある日の昼下がり、菊が例によってお寺の門をくぐろうとして、門の柱に一枚の紙が貼ってあるのに気がつきました。紙に一首の歌が書いてありました。
『増山の坪に植えたる菊の花 ときどき手折る蓮花院』
意味がよくわからなかった菊は、誰かのいたずらかと思いましたが「和尚さん、こんなものが門のところに」と和尚に見せました。とたんに和尚の顔色が変わりました。ほどなくして和尚の姿が蓮花院から消えました。和尚がいなくなった寺も跡がなく絶えてしまいました。

文・絵:いちむら あきら
座間美都治
相模原民話伝説集より