古山の照手姫

 古山に十二天神がありますが、昔、そこに十二の塚がありました。これは小栗判官と照手姫、その家来の十人の墓だと伝えられています。
この地に馬屋窪という所あり、照手姫の父横山弾正がそこで鬼鹿毛という荒馬を飼っていました。弾正の屋敷はそこから北西へ八町ほど離れたところにありました。
弾正は照手姫の心をとらえた小栗判官が憎くてたまらず、亡きもにしようと企み、「あの鬼鹿毛にうまく乗って見せてくれ」と言いました。
鬼鹿毛にはいつも人間の生き餌をあたえて、手のつけられない荒馬でした。判官は恋人の父の言葉ゆえ、やむをえず鬼鹿毛に近づいていくと、今日も人間がごちそうになれると思って、一声高くいななきました。
そのいななきは八町離れた屋敷にいた弾正にもはっきりと聞こえました。弾正は「さては小栗は鬼鹿毛に食われたか」と思っていると、判官が手綱さばきもあざやかに、荒馬を乗りこなして来たのです。
これを見たさすがの弾正もとうとう折れて、仕方なく照手姫と娶せたと言うことです。近くのばんば坂(馬場坂)は、判官が鬼鹿毛を乗りこなした場所と伝えられています。

文・絵:いちむら あきら
座間美都治
相模原民話伝説集より