アズキとぎ婆

 鳩川の水源付近の上九沢と下九沢の鳩川谷は、むかしからいろいろなお化けが出ました。               
石橋部落の東側は、こんもりと樹木がおいかぶさって、昼間でも薄暗くて、鳩川の流れる音だけがさらさらと聞こえるだけで、不気味な感じのするところでした。
通りかかった旅人が、汗ばんだ顔を拭こうと、流れのよどみに手ぬぐいを湿らせようとして、ふと、さらさらと音のするほうに目をやりました。
そのとたんに、今拭こうとしていた汗がさっと引いてしまったのです。
白髪を振り乱したお婆さんが、恐ろしい顔をこちらに向けて、アズキをといでいたのです。
流れの音だと思っていたさらさらという音は、アズキをとぐ音だったのです。
「旅の人、今夜はうちに泊りますかな?」 旅人はその声がまだ終わらぬうちに、一目散に逃げ出しておりました。
それは「アズキとぎ婆」というお化けだったのです。
あずきとぎ婆の話はあちこちにあるようで、津久井の谷津川の水車ところでも「ざくざく」とアズキか米をとぐ化け物がいたといいいいます。
狸か狐の仕業だといわれています。

文・絵:いちむら あきら
座間美都治
相模原民話伝説集より