やっとこ宇太郎山姫に出会う

 大島村の名主の召使いで「やっとこ」宇太郎というものがいました。あるとき、この宇太郎がだんなの使いで、高尾山のふもとの名主の所へ行きました。その帰り道、大戸の奥の榎久保山で、山姫に出会ったのです。山姫というのは、山中に住んでいる美しい女で、人間を獲って食べるといわれていました。
宇太郎は絶体絶命、覚悟を決めて山姫の着物の裾をつかんで、お尻をパッとまくってやったのです。さすがの山姫も面くらい、袂から柿の種をこぼしながら逃げ出しました。宇太郎も必死で裾をつかんだまま離しません。山姫も尻をまくられたまま今度は柿の種を宇太郎の頭に打ちつけ始めました。いやその種の臭いこと、臭いこと、目がくらむほどでした。
宇太郎は山の中を引きずりまわされたあげく、山姫を取り逃がしてしまいました。裾を握っていた手には動物の毛がくっついていました。
主人の家に戻った宇太郎は何ともかとも臭くて、川で体を洗って、やっと家の中に入れてもらいました。 手にくっついていた毛はむじなのものでした。山姫の正体です。投げた柿の種はむじなが食べた柿の実の糞だったのです。

文・絵:いちむら あきら
座間美都治
相模原民話伝説集より