でいらぼっち

 むかし「でいらぼっち」という大男がおりました。どのくらいの大男かというと、あの富士山を軽々と持ち上げてしまうほどでした。
ある日「でいらぼっち」がその富士山を背負って、相模っぱらにやって来ました。少し疲れたので「どれ一休み」と大山にどっかと腰掛けました。
一息入れたので「どっこいしょ」と立ち上がろうとしました。ところがどうしたことか、富士山に根が生えてしまったように、どう力を入れても持ち上がりません。 そのうちに背負っていた綱まで切れてしまいました。
そこで綱の代わりにしようと藤づるを探しましたが、どこにも見つかりません。
仕方なく「でいらぼっち」はあきらめて、富士山をそこへ置いたままどこかへ行ってしまいました。
置き去りにされた富士山は誰も動かすことはできません。いまだに大山の向こうにそびえています。
そのとき立ち上がろうとして、踏んばってできた足跡が、淵野辺の鹿沼と菖蒲沼です。
今でも「でいらぼっち」の歩いた足跡が、沼やくぼ地になってたくさん残っています。

文・絵:いちむら あきら
座間美都治
相模原民話伝説集より