むかし、下方(相模川の下流、茅ヶ崎方面)に吾助という商人がいました。相模湾の海産物を積んで川をのぼり、津久井の市場で売りさばいて、帰りには薪や炭を仕入れてくだっていました。
その日は思ったより商いがうまくいき、つい気分がうきうきしていました。よせばいいのに誘われるまま、田名の宿場で博打に手を出し、せっかくの儲けを全部すってしまいました。
吾助は無一文になった腹いせに、大島の日々神社に忍び込み、ご神体の鏡を盗み出しました。これを売ってすった元手を取り返そうと考えたのです。
盗みは成功して神沢の滝壷のところまで来た時です、吾助の体は一瞬かなしばりにあったように動かなくなったのです。はずみで吾助の持っていた鏡は滝壷にはね飛ばされて沈んでしまいました。
滝壷の中から煙のようなものがたちあがり、何か神様のようなお方がじっと吾助を見ていたのです。
恐ろしくなった吾助は氏子の人たちに心から謝り、鏡を引き上げて元の場所に安置してもらいました。おかげで吾助の体はもとにかえり、それからはまた商いにせいをだしたということです。
日々神社では、祭礼に神輿がこの滝壷に渡御することになっています。
文・絵:いちむら あきら
座間美都治
相模原民話伝説集より