異変を知らせる馬

 「三日後に嵐が来るだと?こんなに天気がいいのに何を言ってるんだ」
「安兵衛のとこの馬がそう言ってるだと」
「バカも休み休み言え」
「いや、この前の地震も当たっていたぞ」
「そういえば安兵衛の馬、なんでも天災異変を知らせると評判だが—-」
この安兵衛さん、実は元橋本にある旧家のご先祖で、その旧家には今も安兵衛さんがつくった馬頭観音の碑が安置されているそうです。
安兵衛さんは八王子千人同心(奉行などの下に属し雑務や警備をする人)を勤めており高二十表一人扶持でした。馬を一頭飼っており、八王子の行き帰りはこの馬を使用していました。
馬はたいへんに利口で、いつの頃からかよく家人に、長雨で洪水になるとか、風が吹いて火事が起きるとか、それとなく教えたそうです。
ところがある時、いつものように安兵衛さんが馬に乗って出かけたところ、九沢あたりで馬が突然倒れて死んでしまいました。安兵衛さんは悲しみましたが手厚く葬り、馬頭観音の碑を建てたのです。
その後、この碑は「持ち上げ観音」として有名になり、病気全快を祈願して碑を持ち上げると、直るときは軽く、直りにくいときは重くて持ち上がらなかったそうです。

文・絵:いちむら あきら
座間美都治
相模原民話伝説集より