相原に「おひの森」と呼ばれた所があります。そこには相模の国で三本の中に数えられるという大きな桧の木がありました。
土地の人からは「おひのき」と呼ばれていました。その木はちょっと枝が折れても、たたりがあるというので、誰も恐れて近寄りませんでした。
ところがある年の嵐の際、大きな枝が一本、吹き折られてしまったのです。さあたいへんです。「何かたたりがなければよいが」村人はびくびくしておりました。
案の定、村に疫病が流行って村人は悩みました。そこでみんなで相談して、さんしち二十一日の間、一生懸命こころをこめて厄除け祈願をしたのです。
その満願の二十一日目の明け方、急にあたり一面真っ暗になり、天地も崩れるばかりに稲光がひらめき、雷鳴がとどろき、大ひの木に雷が落ちました。やがて風もおさまり、あたりが静かになると、まるでうそのようにふつうの朝のけしきになっていました。
しかしそこには、今までうっそうと茂っていた桧の大木がありません。その根っこだけが黒く残って、大きなうつろのようになっていました。中に、黒焦げになった大蛇の死骸がありました。
村人たちは大蛇の死骸をねんごろに祀ったそうです。
文・絵:いちむら あきら
座間美都治
相模原民話伝説集より