踊る猫

 天気がいいのに雨が降るというおかしな体験をしたことありますよね。いわゆる天気雨です。そういう時、よく言われているでしょう、「狐の嫁入り」があるって。天気雨の時は何か異様な気配がただよって、ありそうもないことが起きる感じがするのでしょう。それが狐の嫁入りに結びついたのかも知れません。
それと似たようなことが新磯にあったのです。
天気雨の日かどうかは解かりませんが、村人が確かに見たというのです。場所は、磯部のバス停のある四辻を東の方角に曲がると、鳩川にかかる橋があり、渡るとちょっとした小さな坂道があります。その坂道です。
梅雨の季節ですが、晴れ間が出て何となく蒸し暑い日でした。
誰かが鼻歌を歌いながら坂道を上がっていくようです。
鼻歌はくち三味線のようにも聞こえます。
「誰だろう?」坂道の脇に住むヨネばあさんが、糸車の手を止めて、垣根越しにひょいと覗いたのです。
なんと!声の主は大きな猫です。鉢巻をしてニ本足で立って、踊りながら坂道を上がって来たのです。ヨネ婆さんは腰を抜かしてしばらくは口もきけませんでした、隣の嘉助じいさんも見たそうです。
それからこの坂をねこ坂と呼ぶようになりました。

文・絵:いちむら あきら
座間美都治
相模原民話伝説集より