持ち上げ観音

 元橋本のある旧家に、昔から伝わっている馬頭観音の石碑があります。
この石碑を建てた旧家のご先祖は安兵衛さんといい、八王子の千人同心を勤めておりました。長屋門には馬小屋があり、馬を飼っていました。
たいへん利口な馬で、良くないことが起こりそうだと家人に教えたそうです。馬は家族同様に可愛がられておりました。
ところがある日、いつものように主人を乗せて勤めに出たとき、下九沢の路上でばったり倒れて死んでしまったのです。主人の安兵衛さんは嘆き悲しみましたが、その場へ手厚く葬り、馬頭観音の石碑を建てました。この石碑が今に伝わっているのです。
その後、この碑はなぜか「持ち上げ観音」として多くの人々の信仰を集めたのです。「持ち上げ観音」というのは、自分が病気なんかになったとか、家族に病人が出たときとかに、全快を祈願して碑を持ち上げると、なおる場合は軽々と持ち上がり、なおりにくいときはなかなか持ち上がらなかったそうです。
あるとき、馬頭観音から「この碑を本来の場所に移しなさい」というお告げがあって、元橋本の旧家に戻ってきたということです。

文・絵:いちむら あきら
座間美都治
相模原民話伝説集より