田名の久所にある火の坂の下に、祠があり狸菩薩がまつられています。
この火の坂は、以前は人気のないさみしい所で、坂の上のあばら家に、おばあさんが住んでいました。
秋も深まったある寒い晩、一匹の古狸がのそのそやってきて、びっくりするおばあさんを尻目にどっかりと炉端に腰掛けて、居眠りをはじめまた。
狸は一人暮らしのおばあさんを甘く見たのか、寒くなると出てきて、どっかりと大股を開いて温もっていきます。
あまりの狸の横柄な態度に、おばあさんも頭にきて、ある晩、いつもよりよけいに火を起して待っていました。
やってきた狸は、いい気持ちで居眠りをはじめました。おばあさんは隙をうかがい、十能にいっぱい火をすくって、狸のご自慢の股ぐらめがけて投げつけました。
狸はびっくり仰天、火だるまになって外へ飛び出し、坂ノ下まで転げ落ちて、死んでしまいました。
それからこの坂は火の坂と呼ばれるわけですが、よくないことが続きました。
大正になって、近所に住む人が、この坂で怪我をしました。その折、狸の祟りだというお告げを聞いて、狸菩薩として祀り、当時はご利益があると評判になり、大変にぎわったそうです。
文・絵:いちむら あきら
座間美都治
相模原民話伝説集より